長野〜野沢温泉編

二日目。ここで、この旅最大の事件が起こります。
村井駅9:26発、長野行に乗ろうとホームで待っていました。この電車、通称「みすず」という、おもに新快速などに見られる313系車両が使われていました。
というわけで、入線時に写真を撮ろうとして立ち上がり、結局タイミングを逃して撮れなかったのですがそのまま電車に乗り込みました。
そして、座席に座り、一息ついてあることに気がつきました。

携帯がない。

ついさっき使っていたので、ホームのベンチに忘れたことはすぐ理解できました。
いや、しかしこの時点ですでに軽くパニクってました。次の平田駅ですぐ電車を降り(9:28着)、しどろもどろになりながら駅員さんに事情を伝え、村井駅に電話してもらいました。
「確認して折り返し電話してくれる」ということでした。ここはとにかく待つしかなさそうだ。

電車に乗ってからまだ10分も経ってなかったし、すぐ見つかるだろうとタカをくくっていたところ、村井駅の駅員さんから電話がかかってきました。
回答は「ホームにいた乗客に声もかけ、待合室も探してみたけどなかったです」とのことorz
ヤバい…これはちょっとただごとじゃなくなってきたぞ。

ここにいても仕方ないので、平田駅9:46発の電車で村井駅に戻りました。村井着は9:49。
駅員さんに、さっき携帯を落とした者であることを告げ、事情を聞きましたが、やはりその後も出てきてないとのこと。
確認すると、僕が下り電車に乗ってから駅員さんがホームに見に行く間、上り電車は来ていないとのこと。
つまり、拾った人が同じ電車に乗ったか、そのまま駅を出て持ち去ったか。どうやら可能性はこのどちらかに絞られそうです。

そもそも、拾ったらすぐ届けるような類のモノをわざわざ電車で移動してから届けるだろうか。僕の頭の中では悪用するために持ち去ったとしか思えませんでした。
なぜなら、公衆電話から呼び出してもコール音が鳴るだけで応答がないから。善意で拾った人なら、持ち主からだと思って出ると思うんですよ、やっぱり。

村井駅の駅員さんが、親切にも無線で電車の車掌さんに問い合わせてくれました。「車内が混雑してはいるが、○○号車付近に携帯が落ちてる感じはなさそうだ」という回答。この電車、10:46に終点の長野に着くので、この頃にまた車内を見て連絡してくれるとのこと。あと、もしかしたらそのとき届けられるかもしれないから長野駅にも問い合わせましょうと。
この駅員さんには本当に親切にしていただきました。涙が出るほど嬉しかったです。

待っている間、悪用説のリスクを回避するために最寄りのauショップを教えてもらい、携帯を止めに行ってきました。たまたま徒歩15分くらいの場所にあったので助かった。
その後、どこの駅にも届けられていないことがわかり、もう諦めて先に進むことにしました。村井駅の駅員さんに心からのお礼を告げ、ブルーな気分になりながらも出発。
実は、旅の行程から泊まる宿の名前から場所まで、すべてスマホ上で管理していたのです。それを失ったということは、この先ちゃんと旅を続けることができるのか。これがブルーな気持ちになった最大の要因です。

松本駅に忘れ物センターがあるので、ここでも訊いてみましたがやはりどこの駅にも届けられていないとのこと。
長野駅にもあるので、そちらにも行ってみますという話と長野に着いたら交番に届け出ますという話をして電車に乗り込みました。
本当はこの日にあかり博物館に行く予定だったのですが、そのために来たと言っても過言ではないのに、行けなくなってしまった。電車の中ではずっとうなだれてました。

長野駅に着いて、改札に向かおうとしたそのとき。駅内放送で自分の名前が呼ばれていることに気がつき、促されるまま、導かれるままに忘れ物センターに行くと、こう言われました。

「携帯見つかったよ。甲府で」

松本駅の忘れ物センターの方が、乗った電車の時間とあわせて見つかったことをわざわざ長野駅に連絡してくれたようでした。
しかしなぜ甲府?落とした村井駅から見て、松本や長野とは完全に逆方向。考えられるのは、松本で上りの特急に乗り換えるために、村井駅で下り電車に乗った。と言ったところだろうか。

しかし、受け取りに行くことができないので携帯がないまま旅を続行することは確定。
嬉しさ半分、落胆半分。
でも、とにかく見つかってよかった。自宅へ郵送してもらうよう手配をし、これで心置きなく旅を続けられることに安堵しました。
あかり博物館に行けなくなったことで少し時間ができたので、善光寺に行ってきました。
「遠くとも一度は詣れ善光寺」
さすがは善光寺ですね。火曜にも関わらず参拝者の多いこと多いこと。
長野と言えばおやき。あんなことがあって朝からほとんど何も食べてなかったので、これをお昼としました。
定番の野沢菜とあんこをお買い上げ。
長野から飯山線に乗車。1時間に1本しかないローカル線。当然非電化です。
行き先は野沢温泉。歴史ある有数の温泉地で、古くは湯治場として賑わいを見せた温泉。
泊まったのはこちらの中島屋旅館さん。
なんとか名前を憶えていたので、観光案内所で地図をもらいたどり着けました。当然ながら源泉かけ流しの宿をチョイス。
野沢温泉には13ヶ所の外湯があり、すべて無料で入れます。地元の人々に維持管理されているのですが、温泉を資産として守っていこうという姿勢にはとても好感が持てます。
これは、旅館のすぐ目の前にある熊の手洗湯。
真湯。単純硫黄泉で、野沢の外湯の中では一番泉質がいいんだとか。
翌朝入ったのですが、黒い湯の花が大量に浮いていて、あぁかけ流しなんだなぁと実感。
温泉街散策中に見た夕日。
心が洗われました。
野沢温泉のシンボル、麻釜(おがま)。
100度近い源泉が湧出しており、入浴には適さないのでもっぱら卵を茹でたり野菜を洗ったりするのに使われているそうです。
湯けむりに夕日が射し込んでなんとも幻想的。
河原湯。ここも翌朝入ったのですが、暑すぎてほとんど入れませんでした(‾Д‾;;
リアルに釜茹での刑にされてる気分でした。まぁ、水でうめろよって話ですが。
野沢には、11ヶ所の足湯があります。
外湯の中でも一番大きいのがこの大湯。
立派な湯屋建築です。
野沢温泉の商店街。週末だったらスキー客が大勢いたんでしょうが、さすがに平日だけあってそんなに人もいませんでした。
だから旅館も、僕を含めて三組しかお客さんがいない模様でした。
今まで平日に旅行したことがなかったので、なんか変な感覚でしたね。
真ん中辺にある白い物体。これ、芋なますと言って野沢温泉の郷土料理なんです。冠婚葬祭なんかで必ず出されるんだとか。レシピを貰ったのでいつか作ってみようと思ってます。
夜、熊の手洗い湯に入ってきました。
ケロリンの風呂桶、いいですよね。欲しいんだけどどこで売ってるんだろう。

旅館の女将さん、(たぶん)息子さんにはとてもよくしていただきました。
地元の地理、バスや電車について親切に教えていただき、さらに、どこからかJRの時刻表まで調達してきて貸してくださいました。
おかげで、翌日以降の行程をカンペキに設計し直すことができました。困ったときに人の優しさや温かさに触れると、自分の小ささや弱さがよくわかりますね。そういう意味では今日は本当に嬉しい一日でした。
いつかまた、この宿に泊まりに行こうと思います。